2012年4月11日水曜日

放射線Q&A:放射線関係 | 放射線医学総合研究所


放射線って何?

放射線って何ですか?

放射線とは「波長が短い電磁波」及び「高速で動く粒子」のことを言います。

波長が短い電磁波

放光は波長により色が変わります。波長が長ければ赤、更に長くなると赤外線になります。逆に短ければ、青、紫を示し、更に短くなると紫外線になります。紫外線より波長が短くなるとX線と呼ばれます(境目はかなり曖昧です)。

γ線とX線と発生方法の違いで定義されています。そのため、波長でγ線とX線を区別する事はできません。

高速で動く粒子

人も地球も宇宙もみんな、原子や分子でできています。この原子を構成している電子、陽子、中性子、さらにそれらを構成してる素粒子、逆にそれらから構成されている原子核などが、高速で動いているものも放射線と呼ばれています。

原子の構成について詳しい事をお知りになりたい方は・・・
原子の基礎

この放射線には、α線やβ線のように放射性物質から放出されるものと、加速器から放出されるもの等があります。

光の正体を光子という粒子として考えることもあるので、放射線は全て「粒子」が正体ということもできます。

それぞれの放射線について詳しい事をお知りになりたい方は・・・
放射線の種類

ページの先頭へ戻る

放射性核種って何ですか?

元素は、定義された時、永久に変わらないものだと思われていました。しかし、元素の中には時間が経つと別のものに変わる事がわかりました。

さらに今まで不変のものと思われていた元素の中にも、別の元素に変わるものがあることがわかりました。詳しく調べてみると、同じ元素の中でも原子の重さが違うものがあり、原子の重さによってあるものは不変であったり、あるものは時間が経つと別の元素に変わってしまうことがわかりました。

カリウム40の場合、原子核に電子が吸収されて元素が変わる(「壊変」と言います)

時には、原子核から電子が出て元素が変わることも(「壊変」と言います)

ページの先頭へ戻る

放射線の特徴って何ですか?

放射線の一種であるX線には次のような特徴があります。

  1. 物質を透過する性質(透過作用)
  2. 物質を透過するさい、その物質を作っている原子や分子にエネルギーを与えて、原子や分子から電子を分離させる性質(電離作用)
  3. 物質にあてると、その物質に特有な波長の光を放出する性質(蛍光作用)
  4. 写真フィルムを感光させる性質(感光作用)

これらの性質は、放射線の種類によって持っていないものもあります(例 : 中性子線の電離作用)が、大体はこれらの性質を持っています。

ページの先頭へ戻る

放射性核種の特徴って何ですか?

半減期のイメージ

放射性核種は放射線を放出するという特徴があります。放出する放射線にはα線、β線、γ線及びX線がありますが、これらのうち全てを出す核種もあれば、一種類しか出さない核種もあります。α線、β線、γ線が持つエネルギーは放射性核種によって決まっています(複数の値をとるものもある。β線は最大値のみ)。そのため放射線のエネルギーを調べる事によって、エネルギーの元になっている放射性核種を決めることができます。

放射性核種は一定の時間に一定の割合で別の核種に変わる(崩壊、壊変と呼ぶ)という特徴があります。つまり放射性核種が最初の数の半分になるまでの時間と、さらに半分になるまでの時間は同じです。最初の数の半分になるまでの時間を「半減期」と呼び、この値は、放射性核種によって決まっています。

ページの先頭へ戻る

放射線はどこにあるの?

自然界にある放射線

宇宙が生まれた時に放射性核種も生まれました。その後も、放射性核種は宇宙で作られ、地球ができたときに他の元素とともにそれらの放射性核種を取り込みました。地球ができてから長い時間経つ間に、短い半減期の核種は消えてしまいましたが、長い半減期を持つ放射線は今でも地球上に存在しています。

また、地球上には別の星が爆発した時や輝く時等に発生する放射線が降り注いでいます。この放射線は高いエネルギーを持つ特別な放射線である時もあります。この放射線が、安定な核種を放射性核種に変えてしまう時があります。

人工的な放射線

1890年代、高い電圧を発生させる事ができるようになって、X線などを発生させる装置が作られるようになりました(X線が発見されたのは1895年ですが、それ以前にX線を発生させた人は何人かが知られています)。また加速器や原子炉を用いる事により、人工的に放射性核種を作ったり放射線を発生させることができるようになりました。人工的な放射性核種を作ったのは有名なマリー・キュリーの娘、イレーヌ・キュリーと夫のジョリオ・キュリーです。この夫婦はこの発見によりノーベル賞を貰っています。また加速器を開発したのは、ヴァン・デ・グラフやコッククロフト、ウォルトンがいます。彼等もノーベル賞を貰っています。

ページの先頭へ戻る

放射線と放射能はどうちがうの?

放射能
  1. 放射線を出す能力 (文例:この鉱石は「放射能」が高い)
  2. 放射線を出す元素及び物質 (文例:事故で「放射能」が漏れる)

ページの先頭へ戻る

放射線の単位は何かな?

放射能:ベクレル(Bq)

ある物体に含まれる放射性同位元素が1秒間に壊れる数(放射性物質の量も表します)。放射性同位元素が1個壊れる時に必ず放射線を1本出すというわけではないので、カウント数と放射能(Bq)は一致しません。放射性物質によって、放射線の性質や、半減期が変わるため、違う核種の放射能を足しあわす事は原則としてできません。以前はラジウムを元にして作られたキュリー(Ci)という単位が使われ、1Ci=3.7×1010Bqでした。

電子ボルト(eV)

1本1本の「放射線」がもつエネルギーです。定義としては電荷が1の電子等が1Vの間を移動した時に得るエネルギーです。エネルギーの単位なので全ての放射線で使え、1eV = 1.6×10-19Jになります。


10代の若者の間で不妊の主要な原因は何ですか

照射線量:クーロン毎キログラム(C/kg)

放射線のもつエネルギーを空気のイオン化する能力で示したもの(X線、γ線のみ使用)。直接測定する事ができるため、長い間この値を放射線計測量として使われていました。以前はレントゲン(R)という値が使われ、1R=2.58×10-4C/kgでした。

吸収線量:グレイ(Gy)

ある物質によって、吸収された放射線のエネルギー。1Gyは物質1kg当たりに1Jのエネルギーが吸収されることを意味します。照射された放射線を物体が全て吸収するわけではないので、照射線量と吸収線量は一致しません。以前はラド(rad)という単位が使われ、1rad=0.01Gyでした。

等価線量or実効線量:シーベルト(Sv)

放射線の照射による人体への晩発的な影響を表わす。吸収線量に放射線荷重係数を掛け合わせた値で示します。X線の場合、1Gy当たった時が1Svになります。

線量:グレイ・イクイバレント(GyEq)

放射線の照射による人体への急性的な影響を表わす。放射線の影響を、「X線であれば、この程度の線量を浴びた時の影響に相当する」であることを意味します。

放射線は何でも通りぬけるの?

放射線の透過能力

放射線の特徴として物質を通り抜ける性質がありますが、どれほど通り抜けられるかは放射線の種類等によって違います。

ページの先頭へ戻る

放射線の種類ごとの強さ

放射線荷重係数

放射線荷重係数とは、「放射線の種類や放射線のエネルギーによる「生物学的効果の違い」を補正するための係数」です。(大きい程威力があるということ)

新しい知見に基づいて変更される事があります。

原子の基礎

原子(げんし)

物質が化学的に元素としての特性を失わない最小の構成単位。陽子と中性子でできた原子核とその周囲を動く電子からなる。原子の大きさは電子の領域も含めるため10-10mぐらいとなる。

元素(げんそ)

もともとの意味は「全ての根源となり、それ以上分割できない要素」。鉄や金等、原子番号の等しい原子だけからなる物質を示す場合もある。

原子番号(げんしばんごう)

原子核中の陽子の数。陽子の数によって元素の種類、元素の性質(酸やアルカリを加えた時の反応や、酸化させた時の反応等)が決まるので、元素の種類を表す番号ともいえる。

原子核(げんしかく)

原子の中心に存在しているもの。原子の質量の大部分は原子核のものである。原子核の大きさは約10-14mで、電荷をもつ陽子と電気的に中性な中性子から構成されている。原子番号Zの原子核は陽子数がZ個存在し、陽子数と中性子数Nとの和を質量数A(=Z+N)という。原子核を構成している陽子及び中性子は核子と呼ぶ。

同位元素(どういげんそ)

元素の種類(原子番号、陽子数)が同じでも中性子の数が異なるもの。原子の重さが違う。

核種(かくしゅ)

原子番号Z、質量数A、中性子数Nによって決められる原子または原子核の種類。普通は安定あるいは準安定なエネルギー状態にあるものが一つの核種として認められる。核種を意識して表記する場合、元素記号と質量数を記載するが、その場合、準安定なエネルギー状態にあるものは質量数にmやnをつける。(例:Tc-99m)

陽子(ようし)

原子核を構成する素粒子の1つ。中性子とともに各種の原子核を構成している。質量=1.67252×10-27kg。+1の電荷を持っている。

中性子(ちゅうせいし)

原子核を構成する素粒子の1つ。ニュートロン(nとも書く)という。電荷は0、質量は1.6749×10-27kgで、陽子や(陽子+電子)よりも重い。単独の状態では不安定で、半減期12.5分でβ崩壊して陽子に変わる。原子番号0として扱われる事もある。

電子(でんし)

原子核とともに原子を構成する素粒子の一つ。原子核のまわりを回っている電子を軌道電子(殻電子または束縛電子)といい、単独で存在している自由電子とは区別されている。電子は電荷を持ち、静止質量はme=9.1094×10-31kg(陽子や中性子の約1/1800)である。電子には陰電子(e(-))と陽電子(e(+))の二種類があり、陽電子は正の電荷をもっているが、通常電子といえば、陰電子のことを示す。

陽電子(ようでんし)

陽電子は正の電荷をもっている電子。β+崩壊の時に発生する。陽電子は陰電子と衝突すると消滅し、二本のγ線を放出する。

ニュートリノ

中性微子とも呼ばれ、記号νで表される。電荷を持たず、静止質量は電子の質量よりも小さい素粒子。物質との相互作用は殆どない。原子核がβ線を放出する際、ニュートリノも一緒に放出する。

軌道電子(きどうでんし)

原子核のまわりを一定の軌道を画いて運動している電子。軌道には原子核に近い方からK、L、M、Nと名付けられ、原子核に近い方がエネルギー準位が低いとされている。

電荷(でんか)

粒子が帯びている静電気の物理量。陽子は1.60210×10-19C(クーロン)、及び電子は-1.6022×10-19Cの電荷を帯びている。この電荷量をeで表すが省略される事も多い。

放射線の種類

α線

アルファ(α)粒子ともいわれ、ヘリウム(He-4)の原子核がその正体。+2価の電荷をもつ。α粒子(α線)を放出する壊変を行う場合、原子核は、原子番号(陽子の数)が2、質量数が4、小さい原子核になる。α線は電離作用が強く、空気中では線源から数cmで止まってしまう程、物質中の飛程が短い。そのため紙等でも十分遮る事ができる。α線を放出する核種は内部被曝に注意する必要がある。霧箱では、太い白い固まりの飛跡が見える。検出にはZnSシンチレーションカウンターを用いる。

β線

ベータ(β)粒子ともいわれ、電子1個がその正体。その崩壊のタイプによって陰電子の場合(β-)と陽電子の場合(β+)がある。普通β線という場合はβ-を示す。β-粒子(β線)を放出する壊変を行う場合、原子核の原子番号(陽子の数)が1増え、β+粒子(β線)を放出する壊変を行う場合、原子核の原子番号(陽子の数)が1減る。この壊変では質量数が変化しない。β線の透過力は弱く、通常のエネルギーのものは1cm程度のプラスチック板で遮る事ができる。β線の検出にはGM計数管、電離箱等がある。尚、γ線の内部転換または光電効果による二次元電子線、人工的につくられた高エネルギー電子線などもβ線に含める事もある。


γ線

励起状態にある原子核がより安定な状態に移るとき、または粒子が消滅するときに生ずる電磁波。その波長は10-12〜10-14m、エネルギーにして0.01〜100MeV 程度である。γ線は核壊変あるいは核反応に付随して放出され、核種に固有な一定のエネルギーを持つ。一回の壊変で二種類以上のγ線を出す核種もある。原子核に基因するのがγ線であり、原子に基因するのはX線である。γ線は透過力が強く、一般に鉛で遮蔽する。検出にはGM計数管、シンチレーションカウンター、電離箱等が用いられる。

X線

紫外線よりも短い波長を持つ電磁波の一種。X線には特性X線と連続X線に分かれる。特性X線は電子が励起されたり、電子が原子からはじき出された状態から安定な状態に戻る際に、そのエネルギーを電磁波(X線)の形で放出されたものである。連続X線は高速に加速した電子が原子によって失速したときに発生する電磁波である。X線は発生源が異なるだけで、γ線と同一である。γ線と同様に透過力が強いため、鉛で遮る。検出はγ線と同じものが用いられる。

中性子線

neutron radiation. 中性子は原子核を構成する素粒子の一つで、中性子線は中性子の流れをいう。中性子は電荷を持たないので原子核内に容易にはいることができ、核反応を起こさせるのに使うことができる。

中性子線はエネルギー(または速度)によっていくつかに分類される。

  • 約0.025eV、熱中性子
  • 約1eV、エピサーマル中性子
  • 0.03〜100eV、低速中性子
  • 0.1〜500keV、中速中性子
  • 500keV以上、高速中性子

止める場合は、鉛等で速度を落としてから、水、コンクリートのように水素原子をたくさん含むものに当てて止める。測定検出器にはBF3計数管、LiIシンチレータ、半導体検出器等がある。

陽子線(ようしせん)

proton radiation. 陽子は原子核を構成する素粒子の一つで、陽子線は陽子の流れをいう。陽子を加速器で高エネルギーまで加速すると透過力の大きい電離放射線となる。陽子のもつ正の電荷により飛跡付近の電子に力を及ぼして、エネルギーを失い減速する。エネルギーを失い止る寸前になると力を及ぶ時間が長くなり電離量は急速に増加する。最後に速度が0になったところで止まり、その先の物質とは一切相互作用しない。

電子線(でんしせん)

electron radiation. 電子線は通常の電子の流れと違い、外界に飛び出す事ができるくらい速い流れの電子の束。自由電子に電圧をかける事により加速し、薄膜を通過して外界に飛び出させることができる。陰極線も電子線の一つ。

重粒子線(じゅうりゅうしせん)

原子核の構成要素である陽子と中性子(これらを核子という)により構成されている粒子(一部の素粒子を含める場合もある)を加速器で加速したもの。宇宙線に含まれている場合もある。放医研の重粒子線は炭素等の原子核を使っている。

放射線の利用

工業利用

タイヤ加工

タイヤはゴムでできていますが、生ゴムでは弱いため使用できません。そこで、ゴムを構成している分子鎖同士の一部を硫黄の分子で結びつけて荒い網目状の構造を作ります(ゴムの『加硫』ともいいます)。この結果、生ゴムは強くなり、粘着性を下げることができます。ゴムに硫黄を添加して熱処理する方法もできますが、この加硫反応は非常に遅いため、放射線を使用する方法が主流です。わが国のクルマのタイヤのほとんどが、電子加速器で作られた電子線を当てて加硫処理が行われています。

ビニル・プラスチック加工

電線ケーブルの場合、熱耐性を高めるために数kGyから数十kGyの電子線を照射しています。また、三味線や琴等の弦用に、ナイロン等の化学繊維に電子線を当てて、音質をよくしたものが販売されています。

厚さ計

工場で作られた製品の厚さが規程の範囲のものになっているかどうかを確認するために、厚さ計を使います。放射線の線源と検出器の間に製品を通し、製品がどれくらい放射線を遮るかで厚さがわかります。紙やフィルムの場合はβ線を、金属の圧延の場合はγ線を用います。

着色

γ線を当てる事により、ガラスや宝石類に着色をする事ができます。ガラスや水晶の場合、γ線を当てると、光を吸収するカラーセンターができるため茶色っぽくなります。更に強い線量を当てると、マンガンのイオン価数が変わり、紫色にかわります。これらの変色は熱を加える事で消えます。この着色は真珠やトパーズで行われていることがあります。

水晶の場合、近くにウラン鉱物が埋まっていることがあり、そのため天然の状態で放射線着色している場合があります。

以前、タイで放射化されたキャッツアイが見つかった事があります。これは原子炉で実験的に着色されたものが違法に流通されたものと考えられています。日本国内では、着色にCo-60を用いた放射線照射装置が使われているので、宝石やガラスが放射化される事はありません。

非破壊検査

溶接がうまくいったかどうかや、使用している機材に故障や破損がないかどうかを確認するのに非破壊検査を用いる事があります。線源としてはX線およびγ線が多く、水素を含んだものを調べるために中性子線を使う事があります。

ページの先頭へ戻る

農業利用

ジャガイモの照射

ジャガイモの芽には有害なソラニンが含まれており、摂取すると吐き気、下痢、腹痛等の症状を起こしますが、大量に摂取しない限り死亡例はありません。芽や緑色の部分に毒が含まれていることが良く知られていることもあり、集団食中毒の発生件数は年間に1件程度です(ソラニンが含まれていると苦いのでわかるはずなのですが、各家庭レベルでは気がつかない可能性もあり・・・・)。

このジャガイモにγ線を当てると発芽が収まり芽が出にくくなるため、保存期間を延ばすことができます。これは、生長点(一般に植物の茎および根の先端にあり、頻繁に細胞分裂が行われる部分。そのため放射線に弱い)に放射線があたることにより、生長点での細胞分裂を遅らせ、発芽を防ぐことができるからです。致死線量を当てるわけではないのでジャガイモが死ぬわけではありません。

照射した食品を食べて健康に影響がないかということがもっとも心配されますが、日本をはじめ各国や国際機関でも詳しく研究され、有意な悪影響は認められていません。(照射で起こる反応よりも通常の調理でおこる反応の方が激しいことも)

発芽を防止するためにジャガイモを照射することは、日本でも食品照射の中で唯一認められています。


害虫駆除

薬剤散布による害虫防除は、収量の増加やマラリア等の人的被害からの防護等、役立ってきた反面、生態系の破壊や抵抗種発生などの多くの問題も生じてきました。そこで放射線を利用した特定の害虫のみを排除する不妊虫放飼法は外来種の根絶が考えられ、一部の地域では実際に役立っています。

不妊虫放飼法とは、目的の害虫の不妊虫を人工的に飼育して、大量に放す手法です。野生虫と比較してたくさんの量の不妊虫を放つと、野生虫の大部分は不妊虫と交尾します。しかし、子供は生まれないので、次世代の野生虫数が激減します。不妊虫を大量にある期間放し続けることで、ついには目的の害虫をその地域から根絶させるができます。

この不妊虫は、交尾できるくらいの生活力を保持しつつ、子孫を残すことのできないようにしてあります。放射線を使用する場合、Co-60やCs-137の放射線源を用いて害虫の蛹に適量のガンマ線を照射して行っています。

日本ではフェロモンを用いた雄除去法と不妊虫放飼法を併用したウリミバエの根絶が有名ですが、不妊虫放飼法には3.7PBqのCo-60を用いた施設で70Gyの線量を蛹に当てて放しました。順次沖縄付近の島々で根絶することができ、最後まで残っていた八重山群島でも1993年に根絶されました。

現在日本ではミカンコミバエの根絶に成功し、イモゾウムシ、アリモドキゾウムシの根絶に挑戦が続けられています。

世界ではラセンウジバエ、ツェツェバエ、チチュウカイミバエ等の根絶のためにこの手法が使われています。

ただ残念なことに、この手法が使える虫にも条件(例:雌は一生に1回しか交尾しない等)があるので、いくら嫌われていてもゴキブリ等には使えません。

品種改良

遺伝的形質を利用して生物を改良し、新しい有益な品種を育成することを育種といいます。育種には分離育種(目的にあった個体を選抜ていくだけ)、交雑育種(遺伝的に異なる品種を人為的に交配する)、突然変異育種(人為的に誘発された突然変異を利用する)、倍数体育種等があり、放射線による品種改良は突然変異育種に相当します。突然変異育種は放射線の他にも薬剤や、組織培養中の変異等を利用することがあります。突然変異育種法は、交雑育種と比較した時、既存の品種に存在しない遺伝子や野生種にしか見出せない遺伝子を誘発することができる、原品種の遺伝子型を大きく変えずに特定の形質を突然変異で改良できる、栄養繁殖をする作物の改良に役立つ等の利点があります。

放射線による突然変異育種が化学変異原による突然変異育種より優れている点は2つあり、一つは、望ましくない突然変異を併発させる可能性が少ないこと、もう一つは大量の個体や大型の個体を処理する際に、化学変異原の溶液を大量に準備しなくてもよい(作業者の安全性、廃液の処理の問題がない)ことがあります。

放射線育種は、放射線で突然変異を起したものそのものが一つの品種となる場合(直接利用)と、別の品種をかけ合わせる事により一つの品種として成立させる(間接利用)場合があります。日本の場合、γ線による突然変異体がそのままの品種として育成されたものとして2001年11月までに約120品種が種苗登録されています。さらにイネの場合直接利用は19種類、間接利用は109種です。直接利用の例としてはレイメイや美山錦が、間接利用の例としてはおくほまれ等があります。

放射線による突然変異は、外来遺伝子を導入することにより新しい形質を付加する遺伝子組換え育種とは異なります。前述のようにある遺伝子が働かなくなったために起きるもの(いわゆる機能損失)が中心で、遺伝子の持つ可能性は限られていることにより、ある程度の変異しか期待できません。

ページの先頭へ戻る

医学利用

核医学

画像診断棟Webサイト「核医学検査に関するQ&A」をご覧下さい。

画像診断棟 Webサイト「核医学検査に関するQ&A」

重粒子線治療

重粒子医科学センター Webサイト「重粒子線がん治療に関するQ&A」をご覧下さい。

重粒子医科学センター Webサイト「重粒子線がん治療に関するQ&A」

血液の照射

手術には困難を伴いますが、手術自体が成功しても、その後予期せぬ事態で患者が亡くなることがあります。「移植片対宿主病(GVHD、graft versus host diseaseの略)」もその一つです。

この症状は臓器移植した時、「移植した臓器」の中のリンパ球などが患者の体の組織を排除しようと攻撃する反応により起きます。血液は臓器と言えませんが、血液含まれているリンパ球が輸血された患者のさまざまな組織を攻撃してしまう時があります。普通の輸血では患者の体が輸血血液中のリンパ球を排除してしまうので問題はありませんが、患者の免疫力が落ちている場合や輸血量が多い場合は排除できないためGVHDが発生してしまう可能性があります。

このGVHDは輸血の1-2週間後に、まず発熱。次いで紅斑で顔から全身へと拡大し、下痢や吐気、嘔吐。そして、肝機能障害、骨髄無形成、末梢血の汎血球減少。さまざまな合併症により、一か月以内に死亡します。死亡率は90%以上で、現在有効な治療は見つかっていません。

この病気を防ぐ一番確実な方法が輸血用の血液製剤に対して放射線照射が行うことです。他に発症頻度を下げるには保存血液を利用したり、白血球除去のフィルターを用いるなどがあります。

放射線照射を行う場合は、線源としてγ線やX線が用いられ、輸血用血液に通常は15Gyの放射線を照射しています。最近では血液照射の専用の装置が販売されているので、設置している病院もありますが、日赤血液センターで対応している場合もあります。

このレベルの照射では、赤血球は多少の損傷は受けるものの影響を及ぼすほどのものではありません。尚、血小板や顆粒球を輸血する際は照射後速やかに使用することが奨励されています。

器具の滅菌

医療に用いられる様々な用具(注射器、注射針など)は、以前熱湯消毒や紫外線による消毒が行われていましたが、この消毒方法ではウィルスや胞子を殺すことができず、二次感染の恐れがあるため、現在では滅菌済みの使い捨ての器具が用いられています(1994年の薬事法の改正によりこの規制は厳しくなりました)。

滅菌の方法にはγ線、電子線、エチレンオキシド、高圧蒸気によるものがありますが、エチレンオキシドの場合は工程保守管理や残留性の問題があり、高圧蒸気では滅菌できないものがあることから、γ線により滅菌されているものが増えています。

ページの先頭へ戻る

自然科学利用

化学分析

物質にX線を当てると物質を構成している元素に固有のX線が放出されます。その蛍光X線を調べる事により元素の種類と量がわかります。また、微量の成分を調べるために原子炉や加速器を使って成分を放射化し感度よく測定する事もできます。以前、殺人事件に使われたヒ素を調べた事件がありましたが、これはヒ素以外に含まれる成分を加速器で調べる事により、どこから来たものかを判別できる事を利用したものです。


蛋白質の分析

蛋白質は、アミノ酸がたくさん連なったもので、大抵は一つの鎖がある規則を持って複雑に絡まってできています。蛋白質は構成している原子の位置がある程度決まっていて、その形が蛋白質の役割や性質を決定します。(例えば卵の白身は生だと透明でどろりとしていますが茹でると白く固くなります。これは白身に含まれる蛋白質の形が変わったからです。)そのため、蛋白質の役割と形の関係を調べることが重要になってきます。そこで、結晶化した蛋白質をX線回折で調べて、蛋白質を作る原子の位置を調べます。

トレーサー利用

放射性同位元素は微量でも感度よく測定できるため、加えた物質がどのように代謝されていくのか、どこに集まるのかを調べる事ができます。光合成や脂肪の代謝等の研究にも使われました。(PETはこの利用の応用です)

新しい元素

重い元素を加速する事ができる加速器を用いて、重たい元素にぶつけると、核反応を起して、さらに重たい元素を作る事ができます。それが新しい元素であった場合、命名権を得る事ができます。

新しい元素として学会で認めてもらうためには、その元素の崩壊を既知の核種になるまで追いかけることができなければなりません。現在110番代の元素が作られていますが、仮に見つけたとしても途中で核分裂を起してしまっては学会で認めてもらえません。また、新しい元素を作る核反応は非常に起こりにくいため、どのような核種を、どの核種に、どのようなスピードで当てるかもよく検討する必要があり、大変難しい研究です。

年代測定

地質学や古代生物学の分野では年代測定が非常に重要です。

鉱物試料に残っている親核種と娘核種の量の比や、試料が周囲の放射線から受けた損傷の量などから試料の年代が推定されているに含まれる結晶の成分を調べ、同位体の量を測定することにより、その鉱物ができた年代を知る事ができます。対象とする同位体を変える事により、数十億年前まで調べる事ができます。主に利用される核種として半減期が約490億年のRb-87、約12.5億年のK-40があります。もちろん一つの核種の測定だけでは不明な点も多いので、複数の核種について調べられます。

石英や長石などの鉱物は放射線が当たると、そのエネルギーを歪みとして蓄えるという性質があります。その鉱物を加熱するとそれまでに吸収した放射線のエネルギーを放出して発光します。この現象を熱ルミネッセンスと呼びます。熱ルミネッセンスの強度は、鉱物が蓄積した放射線量に比例し、発光が消失した時、蓄えられていたエネルギーも消失します。また、線量計などで、その場所の年間線量も調べておきます。火山噴火などによってそれまで蓄えられていたエネルギーを放出した鉱物は、それ以降のその場所の放射線エネルギーを比例的に蓄えていく事になります。鉱物の蓄積線量を年間線量で割った値が、その鉱物の年代となります。この方法は、約100年前から100万年までの年代が測定可能です。鉱物が蓄えたエネルギー� ��ESRで測定する方法もあります。

ページの先頭へ戻る

人文科学利用

年代測定

木製の仏像や建築物の年代を調べる際に、炭素-14の量を調べる事により、年代を調べる事ができます。

地層の中から見つかった大賀ハスの年代を知るために一緒に出土した丸木舟の年代測定を行ったことや、トリノの聖骸布が聖遺物ではなく11世紀に作られた聖画像であることを鑑定したことは御存知ではないでしょうか。

産地の特定

蛍光X線装置で微量成分の元素のパターンを調べる事により、古文化財の産地を調べる事ができます。現在、青銅鏡についてはそのためのデータを蓄積している研究機関があります。

美術品の研究

絵画に使われている画材を調べる際に、蛍光X線が使われます。最近の有名な例では、尾形光琳作の国宝「紅白梅図屏風」は背景に金箔、流水部分に銀箔が張られているというのが定説でしたが、東京文化財研究所の調査によると蛍光エックス線分析などにより金箔を張ったと考えられていた背景部分からは、極めて少量の金しか認められず、金泥等を使って色を出し、わざわざ箔を張ったようにマス目を描いてみせる技法を使っていた可能性が高い、とされています。

また、絵の特徴を調べるためにX線撮影をすることがあります。特に作者が若い頃の作品では、キャンバスに書いた絵が売れなかった時(それ以外の複雑な事情の場合もありますが)、その絵の上に新しい絵を描く事があり、X線撮影をすると全く別の絵が発見されるという事もあります。

ページの先頭へ戻る

日常生活での利用

X線検査

航空機への持ち込み荷物は全てX線により検査されています。アメリカの場合、低いX線量による初期検査で開始され、疑わしいと思われるものがある場合、高エネルギービームによる追加スキャンが自動的に起動します。

いずれにせよ防犯上、手荷物検査の装置には公開されている論文も少なく、詳細は不明です。

カメラのフィルムについては、各々の会社のホームページで解説されているので詳細を御覧下さい。

アイソトープ電池

アイソトープ(放射性同位元素)の出す放射線は最終的に熱に変わります。保温材に放射性同位元素をくるむと高い温度が得られ、この熱を電気に変換することにより電池として扱う事ができます。このアイソトープ電池はPu-238が普通使われます。宇宙や極地などのように人が簡単に行けないところ、心臓ペースメーカー等の電源等に用いられています。

煙感知器

ビル等のように大きな建物で火災が発生した時は、いち早く対応を取る事が大切です。人がいない部屋でも部屋に煙感知器があれば、皆に知らせる事ができます。煙感知器の中には、アメリシウム-241のα線を用いているものがあります。原理はα線が空気をイオン化して電流を流しているところに煙が入ってくると、煙の成分は電離しにくいため電流が流れにくくなります。その差を感知するわけです。現在では、別の感知器が開発されたため少なくなっています。

グロー管

蛍光灯が点灯するためには、点灯のきっかけとなる微量の放電が必要です。放電開始特性を上げるために、プロメチウム-147、ニッケル−63、クリプトン−85などの等のβ線が使われていました。しかし近年は点放射性同位元素を含む電極線を用いない点灯管の開発が進んだことにより、使われていません。



These are our most popular posts:

Q.7 放射能と放射線はどう違うのですか? 原子力防災 Q&A NNET

文部科学省 原子力安全課 原子力防災ネットワーク 「環境防災Nネット」 ... の中の Q.7 放射能と放射線はどう違うのですか? ... 放射線にはガンマ線(γ線)、エックス線(X線) 、アルファ線(α線)、ベータ線(β-, β+線)、電子線、陽子線、中性子線などがあります。 read more

放射線の測定器の不確かさが大きいのはどうしてですか? :放射線診療 ...

特にγ(X)線の散乱線は低エネルギー側に連続スペクトル状の分布になると考えられ ますので、検出器の構造による物理的な要因と電気的に設定されている ... 相互作用量 とは照射する放射線の特性だけでなくそれを受け取る側の性質も線量に影響を与える ということです。 ... この項の記述ではNPO法人放射線安全フォーラムの支援を受けまし た。 read more

放射線 - Wikipedia

放射線(ほうしゃせん、radiation)とは、放射性元素の崩壊に伴い放出される粒子線 あるいは電磁波のこと。 ... 人体が放射線にさらされると、悪影響を受ける可能性があり、 放射線による害を防止し安全性を確保するために、各国で様々な放射線に関する ... 電離放射線にはα線、β線、γ線、X線、中性子線、陽子線、陽電子線、重イオン線などが 含まれる。 ..... テキストはクリエイティブ・コモンズ 表示-継承ライセンスの下で利用可能 です。 read more

放射線Q&A ― 放射線安全研究センター ―

原子力技術研究所 放射線安全研究センター お問い合わせ サイト ... 原子力発電所 から出る放射線と、X線検査で浴びる放射線では違いがあるのか? ... アルファ線は、 放射性物質が放出するアルファ粒子の流れで、ヘリウム(He-4)の原子核がその正体 です。 read more

0 件のコメント:

コメントを投稿